「暑っつー…」
「おい、。アイスティーだ」
「はーい」
部屋で読書をしている千秋に言われ、菩提樹寮のキッチンへ向かう。
爽やかなダージリンのアイスティーを用意するため、お湯を沸かそうとコンロに火をつける。
ぼっ…と火がついたのを見るだけで、なんだか暑さが倍増した気がする。
「うぅ…耐えられない」
ポケットに入っていたバレッタで髪をまとめて、上に結い上げる。
すると、下ろしていた髪が背中になくなった分、ほんのわずかだけど涼しく感じた。
「はー…」
そばにあったうちわで扇ぎながら、濃い目にいれた紅茶をいっぱいの氷を入れたグラスに注ぐ。
ぱきぱきっ…と、氷が溶けていく音を聞きながら軽くかき混ぜ、出来上がったアイスティーをお盆に乗せると、部屋へ戻った。
「はい、千秋」
「あぁ、サンキュ………おい」
「ん?」
自分の分のグラスを手に、椅子に座りかけたところで声をかけられ振り向く。
「あれ、ダージリン嫌だった?」
「俺が言いたいのはそんなことじゃねぇ」
じゃあ一体何をそんな怒った顔してるのさ。
首を傾げていると、更に不機嫌な顔になった千秋が立ち上がり、いきなり距離を詰めてきた。
「俺以外の奴の前で、髪をまとめるな、と言わなかったか」
「……あ゛」
紅茶を入れている時、暑さに耐えかねてまとめていた髪を元に戻すのを忘れていたことに、今更気づく。
「だ、だって今日暑いし」
「夏は暑いもんだって、毎年わかってんだろ」
「そうだけど、普段は何も言わないじゃん!」
「二人きりの時は言ってねぇだけだ」
いわれてみれば、そうだ。
千秋と二人きりの時は、髪をまとめていても文句は言われない。
こんな風に言われるのは、千秋がいない時だけだ。
じゃあなんでなんだろう…と、思考をめぐらそうとした瞬間、首筋に生温かいものが触れて思わず声をあげた。
「うひゃっ!!」
「……もう少しイイ声だせよ」
「なっ、なっ、な…」
慌てて首筋を押さえて振り向こうとしたけれど、あたしの両手は背後から抱きしめてる千秋に腕ごと抱え込まれてる状態。
そうなると、無防備な首筋は千秋にさらされたままの状態となるわけで、再び首筋に千秋が顔を寄せてきても、身動きをとることすら難しい。
「ん…」
こそばゆい…というか、なんともいえない感覚に、身を捩るようにして暴れる。
「ちょ、千秋!は、離してよっ!」
「俺との約束を破った、お前が悪い」
「誰にも見られてないから、二人きりと同じってことでいいじゃんっ!!」
事実、部屋を出てから戻るまで…寮の誰とも会わなかった。
まぁ…男子寮の千秋の部屋に出入りしているのだから、会ったらまずいんだけど。
「じゃあ、今日はこれくらいで許してやる」
とりあえず解放されるのだと安心したのも束の間、首筋に触れるだけだった唇が、そのままキツく吸い上げるように噛み付いてきた。
「っ!!」
「さぁ、これでいい。これを見せ付けて歩くってんなら、そのままでいても構わないぜ」
抱きしめていた手を緩めた千秋の表情は、さっきまでとは違っていつもの不適な笑みを浮かべている。
「俺のモノだって、言う度胸がお前にあれば…だがな」
「あ、あるわけないでしょ!馬鹿!」
「相変わらず大した女だな、お前は。この俺に馬鹿なんて言う奴は、お前か蓬生ぐらいだ」
「馬鹿だから、馬鹿って言ってるの!馬鹿っ!!」
「だが、その馬鹿が好きなんだろう?お前」
グラスを片手ににやりと笑う。
そんな千秋を見て、悔しいけれど…カッコイイと思うし、大好きだと思ってしまうのも事実。
悔し紛れに口から出たのは、いつものひと言。
「……お味、は?」
「あぁ、お前のいれる紅茶は最高だ」
その言葉を受けながら、あたしもアイスティーを飲んだけれど…首筋に触れた千秋の熱は、それから暫くの間、消えることはなかった。
「千秋は本当にお馬鹿さんやね…のうなじにあるほくろが、艶っぽくて誰にも見せとうないって素直に言えばええのに」
「………煩い」
「体育の時は、ひとつに結ぶだけで見えてまうんよ?あれ」
「なんだと…」
「ふふ…ほんま、千秋はお馬鹿さんやね」
「黙れ…」
うなじのほくろは色っぽいですよね。
隠しておきたい気持ちはわかるが、隠し通させようとするのは無理ですって。
長い髪をずっと下ろしたままというわけにもいかないんだから…体育とか、旅行とかあればお風呂とか…ねぇ?
まぁ、でも…そーいう千秋も可愛いかな、と(笑)
でも、蓬生はほくろの存在も知ってて、尚且つ、隠せないのに隠し通させようとしてる千秋の行動も可愛くて仕方ないらしいってのがツボ。
…どんだけおかしな人にしたいんだ、土岐さんゴメンね!(笑)←謝罪なので"さん"つけてみた